楽屋入り。主催者「見ましたよ。今コロナで差し入れお断りしてますが、今回はお受けしますね(苦笑)」私「すいません。余計なコト言いました……」。スマホを見るとリプライには「沢山届いてますか?」「持っていきたい!」「帰りは帯が沢山で大変ですね!」とガヤガヤしている。
開場。帯は来ない。開演15分前。長細い箱がひとつ届いた! 開けるとお菓子……そろそろ着替えねば。開演5分前……弟弟子の一蔵くんが「……来ませんでしたね……よかったら私の使いますか?」と哀れみを含んだ声で聞いてきた。「いや、いいよ……なんとかするから……」と私。風呂敷を折って帯状にして腰に巻く。背後はみっともないが、客からは見えない。いけるぞ、風呂敷。無事一席終えて、「実は帯をですね……」と言うと喝采。ツイートを見てるお客がたくさんいるようだ。「これ、風呂敷なんですよ……結局、帯、一本も来ませんでした……」。シーンの後、爆笑。ウケてよかった……がわびしい。帯のおかげで己の身の丈がよくわかった。結局一席目で風呂敷が解け、二席目は一蔵に帯を借りた。一蔵くんは来年9月に真打ち昇進予定。この御礼はちゃんとせねば、と思う。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『人生のBGMはラジオがちょうどいい』(双葉社)が発売。ぜひご一読を!
※週刊朝日 2021年12月10日号