では、どうすればこの状況を変えられるか。

 少しでも社会を良くしたいという運動は、立ち上がっては挫折してきた。だから、頑張っている人を冷笑するような振る舞いが出てきた。だったら逆に言えば、必要なのは「小さなことでもいいので成功体験だ」と雨宮さんは思う。

「私がやっている反貧困の運動は、もちろん変えられなかったこともたくさんあるけれど、生活保護を受けにくかった路上生活の人が今は受けられるようになったことなど、変えられたこともたくさんある。少しずつ、ひっくり返してきたんです」

「でも、『この人たちがこれだけ運動してきたから、これだけのことが変わってみんなが恩恵を受けられているんだよ』ということが、自慢話に受け取られるのもよくないからと本人たちがあまり言ってこなかった面もある。そこはネットでのデマや揶揄する声に勝る勢いで、もっと言っていくことが必要だと思います」

 ジャーナリストの安田浩一さんもこう話す。

「人間の激しい怒りによって世の中が変わっていくことはたくさんある。飲食店やバスで黒人と白人の席が分かれていた1960年代の米国で公民権法を勝ち取ったのも、身を張って抗議した多くの人がいたから。今の若い人が法律で定められた最低限の時給をもらえているのも、土日にきちんと休みが取れるのも、真剣に怒った人たちが変えてきた権利です。そのことを自覚せず、あざ笑う社会では、ますます社会の停滞を招くと思います。僕は繰り返し、『笑うな!』と言い続けたいです」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年11月7日号より抜粋

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