がんの治療法は、多くの研究からどういう順番で行うか決まっていて、ガイドラインと呼ばれる医師が用いる治療指針に記されています。では、それらの治療法をすべて使い切ってしまったら、どうなるのでしょうか? 近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が解説します。

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 がんの治療の基本は、手術、放射線、抗がん剤の三つです。最近では、がん免疫療法が加わり4本の柱を中心とした治療が基本となっています。

 がんと言ってもさまざまな種類があり、それぞれ治療法が異なります。私が専門としている皮膚がんでは、胃がんや乳がん、食道がんとは全く違う抗がん剤を使います。なぜなら、がんそれぞれに特徴があり、その特徴に合わせた治療法が研究されているからです。

 例えば放射線治療に関して言うと、そのがんが放射線にどれだけ反応するかで扱いが変わります。皮膚がんの中でも、放射線が効くがんもあれば、放射線がほとんど効かないがんもあります。例えば、悪性黒色腫(別名、メラノーマ。ほくろのがんとも呼ばれます)は放射線が効きにくいがんです。そのため、手術や抗がん剤より先に放射線治療を選択することはありません。一方、別の皮膚がんである有棘細胞がんは放射線がよく効くタイプなので早い段階から治療の選択肢になります。効果のある治療法から順番に行うのが基本です。

 初期のがんに対しては手術が治療の第一選択になる場合がほとんどです。しかし、全身にがんがある場合、手術ですべて取り除くことが難しくなります。この場合は、抗がん剤やがん免疫療法を行います。抗がん剤も多くの種類があり、どのがんでどの抗がん剤が効きやすいなどの研究データがそろっています。そのため、皮膚がんの中でも悪性黒色腫で使用する抗がん剤と他の皮膚がんで使う抗がん剤は全く違います。一つの抗がん剤だけでなく、複数の抗がん剤を組み合わせて治療することもあります。

 さらに、がん免疫療法を用いる場合もあります。悪性黒色腫はがん免疫療法であるオプジーボがよく効くことがわかり、世界で初めて保険承認されました。肺がんなどはがん免疫療法と従来の抗がん剤を組み合わせて治療をします。一方で、脳腫瘍などはがん免疫療法があまり効かないようです。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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