![東京・南麻布にある本社。遊びごころあふれる内装で、いたるところに従業員が集える場所がある(撮影/写真部・東川哲也)](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/2/9/682mw/img_29c5669ba2b55b429cd3bfa876c7e8f976455.jpg)
この戦法で開成は05年、東東京大会ベスト16に進出した。勉強漬けで鉄棒の逆上がりもできない部員がいる野球部が、指導一つでみるみる強くなる。その様子に水野は「教育」の可能性を見た。流行していた漫画『ROOKIES(ルーキーズ)』に登場する熱血教師、川藤幸一にも憧れ、いつしか水野は教師を目指すようになっていた。
開成の講師をしていて気付いたことがある。親や教師や友達に一目置かれるのは、勉強かスポーツができる子供。クラスにはアニメやゲームが好きな子もいて、自分の作品を見せにくる。中には玄人はだしの作品もあるが、誰にも褒められない。
「この子たちがシリコンバレーで生まれていたら、ずいぶん違う人生になるんだろうなあ」
世の中は「これからはITだ、ネットだ」と騒いでいるのに、それが得意な子供たちは教室の隅で肩身の狭い思いをしている。「何か違う」と水野は思った。
入社後に経営が急降下
「世間知らずの教師になりたくない」と考えた水野は、大学院を出ると、「3年だけ」と決めて、新卒採用コンサルティングなどを手がけるベンチャー企業のワイキューブに入社した。東京・西新宿の高層ビルにオフィスを構え、ワインセラーやバーを設置する派手な福利厚生で話題を呼んでいた。ところが、入社後に経営が傾き始める。
「ウチは固定費が高すぎるんだよなあ」
たばこ部屋で聞こえてくる先輩たちの会話は、日に日に深刻になっていく。月1200万円とも言われたオフィスの賃料がたたっていた。最初から3年で辞めると決めていた水野にとって、それほど深刻な問題ではなかったが、民事再生法の適用申請に向かっていくベンチャー企業の様子を中から見られたことは、大きな学びになった。
顧客は中小ベンチャー企業が多かった。商談の相手は皆社長である。スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグ、ソニー創業者の井深大や盛田昭夫の本を読んでいた水野は、創業社長というのは「ものすごい人たち」と思い込んでいた。だが、中小企業の社長と接してみると「割と普通」だった。大河ドラマ「龍馬伝」や、ネット広告大手サイバーエージェントの創業者、藤田晋が失敗を含めて赤裸々に綴(つづ)った『渋谷ではたらく社長の告白』にも感銘を受けた。
「先生になって教育を変えられるのか」という疑問とともに、「どうせやるなら、教育界のウォークマンやiPhoneを作りたい」という野望が水野の中で頭をもたげた。最初に思いついたのは、テーマパーク感覚でプログラマーなど今どきの職業を体験してもらう「中高生版キッザニア」のアイデアだった。(敬称略)(ジャーナリスト・大西康之)
※AERA 2021年12月13日号より抜粋
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