同じく、今この時期の『解禁』といえばカニ。北陸に行くと、新幹線駅の構内の壁の至る所にカニのポスター。重度の甲殻類アレルギーの人なら、卒倒しそうなカニ密度。カニの『解禁』時期の落語会の打ち上げでは、香箱ガニ(セイコガニ)を頂くことが多い。ズワイガニの雌で内子・外子と呼ばれる卵が濃厚な味で美味。限られた期間しか獲ることの出来ない貴重なカニだ。何年か前、「(小声)実は解禁は明日なんですけど……一匹網にくっついてきたみたいでして、特別に一之輔さんに……ふふふ」と、1日早い香箱ガニが目の前に出された。「いいんですか?」「まぁ、ここだけの話で」「皆さんは?」「一杯しかありませんので。一之輔さんだけでどうぞ」「捕まりませんか?」「カニはもう茹で上がっちゃってますんで、今更ですよ」「私だけ?」「はい」。一同がこちらを凝視する……メチャクチャ食べにくいよ! 恐る恐る一口。息をのむ一同。「美味しいでしょ? 1日早い香箱ガニは!」。普段食べてないから違いはわからないです。が、一応「……ですね、最高です」と答えたら「セイコ、だけに!?」。一同、爆笑。なぜ笑える?
何が言いたいかというと、『解禁』に期待しすぎるのは禁物。『解禁』の2文字は人を狂わせる。さぁ、ネタ下ろしの稽古をしよう。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2022年11月11日号