落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「解禁」。
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これを書いてる今現在、私は10月28~30日に『一之輔三昼夜』なる会を控えている。夜の部は毎日一席の初演ネタ下ろし。皆さん「初出し」に惹かれるのか、早々に完売。ありがたいが複雑です。落語は回数をかけて練られていくもの。初演は初演なりのアラが目立つし、あんまり前のめりになられてもなぁ。ネタ下ろしなんて「まぁ、こんなもんだよなー」って感想で十分です。これ、みな言い訳。
私はまず『解禁』といえばヘア。30代以下の若者にはわからないだろうが、90年代頭から日本はヌードに陰毛が写ってるか、否かで揉めていた頃があった。平和。思春期の私は初めて見る「赤の他人の異性の陰毛」に腰を抜かしたが、その後に続くヘアヌードブームによって週刊誌のグラビアはどれもこれも毛だらけに。そのうち多少の毛では何とも思わなくなってきた。「手入れ無し! 剛毛ヌード!」などと銘打つモサモサの猛者まで現れて……毛はどこまでいっても毛なことに気づくのにさほど時間はかからなかった。
ボージョレ・ヌーボーは毎年11月の第3木曜が解禁日。令和4年ともなると、恐ろしいくらい誰も騒いでいない。ニュースでほんのちょっと触れるくらい。これも全て漫画『美味しんぼ』が原因、と踏んでいる。『美味しんぼ』の25巻「初もの好き」では、ボージョレ・ヌーボーを「アルコール入りのブドウ汁」「アルコール以前の飲み物」と登場人物に言わせ、主人公の山岡士郎がボージョレ・ヌーボー愛飲家を明らかにモノのわからない人間としてdisったり。子供ながらに「ボージョレ・ヌーボーって不味いんだ……」と刷り込まれてしまった。『美味しんぼ』好きはこんな人多いはず。世の中の風潮は雁屋哲が決めている時代が確かにあった……ような気がする。