だからこそ、日銀は利上げに踏み切れない。そればかりか、市場に供給した通貨を回収したくてもできない自縄自縛の状況にあります。ほかの国の中央銀行は、インフレを抑えるため金融を引き締めているのに、日銀だけができない。最終的にはハイパーインフレといったひどい目に遭うのではないでしょうか」
藤巻さんは、目先、政府が10月28日にまとめた総合経済対策が世界の投資家から注目を集めるようなことになれば、混乱を招きかねないとして注意を呼びかける。
同20日に退陣表明した英トラス前政権の前例があるためだ。同政権は財源の裏付けがないのにもかかわらず、大型減税やばらまき政策を打ち出したことで財政悪化の懸念が強まり、英通貨ポンドや英国債が暴落した。
さらに藤巻さんは、今回の日本政府・日銀による為替介入で1ドル=150円が円安進行の「防衛ライン」としてみなされるようになった点も気がかりだと打ち明ける。
「1992年のジョージ・ソロス氏による英ポンド売りが思い出されます。英政府は当時、欧州連合(EU)加盟を目指して、その条件である独通貨マルクに対する一定の為替水準を維持するため、英ポンドを買い支えていました。当時は1ポンド=2.77マルクが防衛ラインとして設定されたのです。しかし、ソロス氏はポンドがファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に比べて過大評価されていることを見抜き、市場で売りまくりました。その結果、ポンドは暴落した。
今の日本と米国も、当時の英国とドイツの関係と同じ構図にある。1ドル=150円の防衛ラインを意識して日本円を売り浴びせようとする動きが出てくるかもしれません」
こうした状況から脱却するには、日銀に代わる「新しい中央銀行」を作るしかないと強調する。
「健全な財務内容の新組織を作り、中央銀行としての役割を引き継ぐ。そしてこの機会に、日本に本当の意味での資本主義を根づかせ、成長できる国に生まれ変わる必要がある。日本人は結局、クラッシュがないと変われない。きちんとした競争原理が働かない社会主義国のような状況を抜け出し、自助努力によって競争できる国にする。この混乱期に、国も経済も新しく作り替えるべきです」
(本誌・池田正史)
※週刊朝日 2022年11月11日号