火災があった大阪のビルに取り残された人を救助する消防隊員(提供)
火災があった大阪のビルに取り残された人を救助する消防隊員(提供)

 谷本容疑者も事件現場となった心療内科クリニックに通っていたことが所持していた診察券などからわかっている。10年前の殺人未遂事件でも判決文には<うつ病等の精神疾患が犯行に影響していた可能性がある>と谷本容疑者の弁護側の主張が記されていた。

 だが、大阪地裁は判決でそうした弁護側の主張を一蹴し、実刑判決となった。

<ただ自分が死にたいとなんの落ち度もない被害者を巻き添えにしようとした身勝手極まりない>

<被告人自身の行いが招いた>

<精神疾患といえるようなものではない>

 放火事件の数か月前に谷本容疑者と会った知人はこう話す。

「谷本容疑者は精神的に苦しくなると病院に行く。『よくならない、病院が悪い』と言っていた。酒を飲み泥酔し、現実逃避しようとしているのか、よく元妻や子供らに責任転嫁するようなことを大声で言っていた。だが、原因は容疑者自身にもあるように思えました」

 谷本容疑者は殺人未遂事件で服役後、社会復帰もうまく果たせなかったようで、「定職につかず、福祉の世話になっている」と知人に語っていた。

「谷本容疑者は顔や足のやけど、重度の一酸化炭素中毒で重篤な容態。少し持ち直したが、予断は許さない状態です」(前出の捜査関係者)

 元東京地検特捜部の落合洋司弁護士はこう解説する。

「谷本容疑者が死亡すれば、被疑者死亡で事件は裁判もなく終わります。命が助かっても一酸化炭素中毒で脳にダメージがあり、裁判を受けることができるかとなった場合、当局がどう対応するか、注目されると思います。脳機能が失われているとなれば、不起訴となる可能性があります。私も公判検事の時、脳梗塞で被告人が倒れて、論議になった経験があります。ただ、これだけ犠牲者を出した放火殺人ですから、当然、警察や検察は被害者感情にも配慮しなければならない。難しい判断となるでしょう」

 (AERAdot.編集部 今西憲之)