さらには、他と比べても「メス性」の強い動物です。「猫なで声」や「泥棒猫」など、「女を武器にした性質(たち)の悪さ」を表す際に用いられることも多く、昔から女に化ける動物と言えば「ヘビ・ネコ・キツネ」と相場が決まっています。

 と、ここまで書いてきて気付きました。私のような同性愛者の間で頻繁に使われる「ネコ」という隠語の由来について。こちらの世界では、主にセックスの際に「男役(攻め)」のことを「タチ」、そして「女役(受け)」を担う人を「ネコ」と呼びます。何をもって「女役」とするかは人それぞれで、単に精神的なスタンスを指す場合もあったりと、「ネコ」の定義は様々です。いずれにしても、猫は「メス」の象徴だったということ。何十年も使ってきた「ネコ」の語源の謎がやっと解けました。ならば女の格好をしている女装なんてものは、まさに「化け猫」と呼ぶにふさわしいでしょう。

 今夜も全国のゲイバーやゲイ専用アプリ上で、「君ってネコ?」とか「頑張ればネコもできます」とか「あの人、男ぶってるけどバリネコよ!」といった台詞が飛び交っているはず。どんなに猫ブームが盛り上がりを見せようと、この国でもっとも「ネコ」という言葉を口にしているのは、愛猫家でも獣医でもなく、その果てしない性欲を持て余しているホモやゲイの人たちです。彼らは間違っても「ネコ」のことを「ニャンコ」などと腑抜けた呼び方はしません。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2021年12月31日号

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