──荒木村重、黒田官兵衛に注目されたのはなぜですか。
戦国時代を書くための窓として、村重や官兵衛が出てきました。地下牢に囚われた官兵衛が探偵をしたら面白いというプリミティブな思いつきもありました。アームチェア・ディテクティブ、安楽椅子探偵ですね。
──官兵衛はどんな人物だと思いますか。
戦国時代と江戸時代の過渡期にある人です。すべては自分の家が生き残るためという戦国時代的な考え方と、領地を支配するからにはそこを経営する義務があるという江戸時代の考え方の両方を持っている。
作中では殺されて当然の立場にいて何も失うものがない官兵衛と、すべてを一人でしょい込んでいく村重の対比が面白みにつながればと思っていました。
◆ミステリーと好奇心の交点
──村重は北摂津を治める必然性のない存在であり、戦に勝つことで家中をまとめてきた人物として描かれています。
村重は池田家の重臣でした。出身はおそらく丹波ですから、よそ者なんです。実力でのし上がって池田家を乗っ取り、わずかな期間で北摂津を統一します。社会学者のマックス・ウェーバーは支配の3類型を挙げています。人々を服従させ、支配者たりえるための条件です。伝統的支配、カリスマ的支配、合法的支配の三つですが、村重はどの条件にも当てはまらないんですね。
──では、なぜリーダーになれたのですか。
それはもう、強かったから、勝ってきたからです。そういう人は勝てなくなって少しでも影が差すと、所詮あいつはよそ者だとか言われてしまう。それは昔も今も同じです。作中では官兵衛が自らの知恵でウェーバーと同じ結論に達しています。
──村重が自ら茶をたてて客をもてなす場面が印象的です。
千利休が茶の湯の革命をする前の時代なので、にじり口をくぐって狭い茶室で一客一亭というのは新しすぎる。茶碗を持ったまま話をするのか、飲んでいる間は黙っていて、その前後に話すのかもわかりませんでした。原稿用紙にして1、2枚の短い部分ですが、身を入れて調べて書きました。