中野署の対応は早かったという。相談からひと月ほどで加害者が特定され、中川さん側にもその個人情報が伝えられた。

 その後、中川さんは、加害者の両親までもが、加害者の行為を知って、とても辛い思いをしていることを関係者から聞かされた。

「なにより、巻き込まれてしまったご両親がかわいそうだと思いました。どんな思いだったのかと……。警察がさまざまな捜査をする中で、家や職場、周囲の人たちにもその事実が知れわたる可能性があるということを、私も初めて知りました。もし知人が実はネットで脅迫や中傷を繰り返しているとわかったら、その人とはリアル(現実世界)で付き合えなくなりますよね。軽い気持ちで書き込んだことが、何倍にもなって自分に跳ね返ってくるんです。そんな大きな犠牲を払ってまで、誰かの悪口をネットに書き込みたいですか?」

 ネット中傷の加害者は事件化されても匿名で報じられるケースが目立つ。また、ネットの誹謗中傷は名誉毀損罪や侮辱罪に問われることが多いが、被害者の告訴が必要な「親告罪」に当たる。

 こうしたネット中傷を取り巻く現状に、中川さんは率直な思いを語る。

「中傷に悩んで精神を病んだり、実際に命を落とされた方もいます。その事実を考えると、匿名で終わるというのは被害者としては軽いと感じます。警察に相談するにしても、民事裁判を起こすにしても、被害者側ばかりが時間や労力、お金の負担を強いられる状況はおかしい。攻撃される側がもっと守られて、加害者が相応の制裁を受けたり負担をする形にならないと不公平だと思います」

 中川さんも仕事は多忙を極めるが、当時は警察に2日間出向いて細かく事実を確認された。社会人が仕事の合間をぬって2日間、警察に行って時間をかけて相談するのは簡単ではない。場合によっては職場の理解も必要になるだろう。顔を見たことすらない誰かの一方的な書き込みで、誹謗中傷された側に負担がかかるという理不尽な現実がある。

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