串田和美(撮影/写真映像部・高野楓菜)
串田和美(撮影/写真映像部・高野楓菜)

「惰性的にならないように、いつも新鮮に、今そこで言葉が生まれてくるようにしていたい」

 そして、自分をギリギリの状態に追い込んでくれた共演者として、森繁久彌さんとの思い出を披露してくれた。

70歳の誕生日を迎えた時の森繁久彌さん
70歳の誕生日を迎えた時の森繁久彌さん

「もうほとんど、最後のほうのドラマだったと思うんだけど、森繁さんと共演した『あ・うん』というテレビドラマで、原作は向田邦子さん、演出は久世(光彦)さん。僕は森繁さんの息子役でした。森繁さんが僕の目の前で亡くなってしまって、『お父さん!』って叫ばなきゃいけない役なのに、久世さんの『よーい』って声が聞こえた途端、ここじゃ言えないようなエッチな話を僕の耳元で囁くんです(笑)。森繁さんは死んだふりしてるから、僕もアドリブで、『もうやめてくださいよ、お父さん』とは言えない。久世さんがカンペを作って、耳元で『もうちょっと間を取ってください』とか指示するんだけど、そんなこと言ったら、絶対に逆のことをしちゃう人なんですよ。あのときは本当に大変でしたし、僕も必死になりました。でも、今思えばもしかしたら、そうやって森繁さんは僕らを本気にさせようとしていたのかもしれないですけどね」

 若い頃から、“巨匠”には絶対になりたくないと思っていた。周囲で、偉そうな肩書を持つ人を見ていると、部下や後輩から万能だと思われ、頼られてはいるが、誰からも意見されず、孤独な感じがしたからだ。

 串田さんの場合、自分が、芝居について質問されたとき、わからないときは「わからない」と正直に言うし、失敗したときは「失敗した」と言った。

 でも、周囲から巨匠扱いされてしまうと、そんな正直さは許されないような気がした。

「結局、みんなが意見できない人というのは、周囲の力でそうさせられちゃうんだなと思いますね。でも、僕はモノを作る仲間とは、常に対等でいたい。だから、偉い人のように丁寧に扱われそうになると、馬鹿なフリして、『わかんない』『失敗した』を連発します(笑)。答えを知っている人だと思われちゃうのはつまらないから。でも、確かに社長や総理大臣に、『本当わかんねぇんだよ』なんて言われたら困るもんね。上に立つ人は大変だ(笑)」

串田和美(撮影/写真映像部・高野楓菜)
串田和美(撮影/写真映像部・高野楓菜)

(菊地陽子 構成/長沢明)

※記事前編>>「演出家で俳優の串田和美『経験によって駄目になることもたくさんある』」はコチラ

週刊朝日  2023年2月3日号より抜粋