演出家として、そして俳優としても活躍する串田和美さん。「どんな形でも記憶に残る何かを作れたらそれで十分」と作品にかける思いを語った串田さんだが、その原点を明かした。
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20代半ばで劇団を旗揚げし、「もっと泣いてよフラッパー」や「上海バンスキング」などのヒット作を生み出した。ところが、作品がヒットすればするほど、みんなが同じように感動してくれることに、物足りなさを覚えるようになる。
「舞台を観た人が、同じところで笑って、同じところで泣いてくれるのはとてもありがたいんですが、僕としては、みんな違う感じ方をしてくれたほうがもっとうれしい。スポットライトが当たっていないところに注目してくれてもいいし、感動する場面で怒っている人がいてもいいし、それぞれの主観で、好き勝手に観られる芝居にしたいなといつも思います」
■最後までふざけていた森繁さん
インタビューの途中、「その言葉、好きじゃない」と断言する単語がいくつかあった。はっきり苦手と言い切ったのが、“セオリー”に“メソッド”。人生でも演劇でも、「○○すべきだ」とか「こうあるべき」みたいな発想は、生まれてこのかた持ったことがないそうだ。
「メソッドなんか手を出したらダメ。感性が退化しちゃう(笑)。俳優なんて常に丸腰でいいんですよ。そういえば、(十八代目・中村)勘三郎さんに言われたな。『串田さんは、舞台という俳優の戦場に一つも武器を持たないまま、丸腰で出てっちゃう人だね! 俺にはできないねえ』って。舞台でも、何か小さなアクシデントがあったとき、ちょっとだけうれしくなるっていうか(笑)。いや不謹慎に思われても困るんだけど」
舞台は、いざ幕が開いたら、毎日本番が続くものだ。そこで、セリフをペラペラ言えてしまうようになると、俳優の、その舞台に対する本気度が薄れるときがある。本番では、常に緊張感を保ちたいと串田さんは考えている。それは舞台に限らず映像でもそうだ。