AERA 2023年1月2ー9日合併号より

 高齢化社会を反映し、医療・バイオ系ビジネスの台頭も目立ちます。島根大学発のベンチャーとして注目されるのが、「PuREC」です。取締役兼CSOの松崎有未・島根大教授らが持つ技術を活用し、高品質の間葉系幹細胞を提供する事業は世界から注目されています。

 医療系ではほかに、感染症の画像診断に取り組む「アイリス」代表取締役の沖山翔さんも挙げました。東京での救命救急医を経て石垣島などで離島医として勤務し、医療に対するさまざまな声を実感した稀有な経験が、沖山さんを「AI技術を活用して、みんなで共創できる、ひらかれた医療をつくる」という、大きな志をもった起業家にしていると感じています。

 テレビから流れる言葉の聞こえにくさを改善するスピーカー「MIRAI SPEAKER」を開発した「サウンドファン」は古参の技術者たちも活躍する、ものづくりベンチャーの代表格と言えます。代表取締役社長の山地浩さんはネット事業を手掛ける企業で代表取締役を歴任した後、18年に社長に就任、経営手腕は高く評価されています。

 国や大企業が主導してきた宇宙ビジネスもベンチャーにシフトしています。「宇宙商社」を掲げる「Space BD」の代表取締役社長の永崎将利さんは、日本初の宇宙商社として日本の宇宙ビジネスを、世界を代表する産業に発展させることを目指し、宇宙を活用したさまざまな事業を展開しています。

 フードロス削減問題に取り組む業界で先端を走るのは「クラダシ」代表取締役社長の関藤竜也さん。各社との協業や新企画を次々に手掛け、活力が感じられます。おやつのサブスクリプションサービスを展開する「スナックミー」は私も利用しています。日常に小さな楽しみを与えてくれるビジネスモデルを成功させた、代表取締役社長の服部慎太郎さんのセンスはお見事です。

 日本は少子高齢化が進み、労働現場はこれからますます深刻な人手不足に直面していきます。そんな時代に求められる起業家は、がむしゃらに自社の利益や効率のみを追求し、トップダウンで社員を引っ張っていく従来型のリーダーではないように思います。今回挙げた10人はいずれも、企業として社会貢献の意識や目的を明確に打ち出す情熱やパワーを備えるとともに、そこで働く社員一人ひとりの働きやすさや生きがいにも丁寧に向き合うことができる新しいタイプの起業家です。そうしたリーダーがいるベンチャー企業には優秀な人材が集まり、新たな社会を切り開く企業に成長していくと確信しています。

■寺島有紀さんが選ぶ10人

大澤陽樹 オープンワーク代表取締役社長

井上拓磨 はたらクリエイト代表取締役CSIO

小林味愛 陽と人代表取締役

稲川琢磨 WAKAZE代表取締役社長

松崎有未 PuREC取締役兼CSO

沖山翔 アイリス代表取締役

山地浩 サウンドファン代表取締役社長

永崎将利 Space BD代表取締役社長

関藤竜也 クラダシ代表取締役社長

服部慎太郎 スナックミー代表取締役社長

(構成/編集部・渡辺豪)

AERA 2023年1月2-9日合併号

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