東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件が広がりを見せるなか、札幌市は2030年冬季五輪の招致を進めている。札幌冬季五輪に求められるものは何か。東京五輪の大会組織委員会の理事を務めた中京大学の來田享子教授に聞いた。AERA 2022年10月24日号の記事を紹介する。

*  *  *

──汚職事件を受け、日本オリンピック委員会(JOC)は「組織委のガバナンス体制強化」「スポンサー選定プロセスの透明化の検討」の方針を打ち出した。

「自分たちなりの具体案もなく、このタイミングで『検討』は遅すぎます。『組織委の』ガバナンス強化、としている点も不十分。2030年札幌五輪の招致プロセスも始まり、もう市民の税金は使われている。『組織委ができたら』ってことは、じゃあ招致できなかったら透明性は確保しないのか、という話になります」

──札幌五輪の招致について、來田さんは「招致が日本の社会、札幌市民にとって本当にプラスになるのか、もう少し判断材料を出してほしい」と話す。では、どんな目標を掲げればよいか。そう問うと、「問いの順番が逆です」と返ってきた。

「掲げるべき目標として、東京五輪では達成できなかったジェンダー平等などを挙げることはできます。でも、それは『大会を招致するから出てくる問い』ではないのです。今この国で変えなきゃいけない課題は何か。その認識がまずあって、次に『では、札幌に五輪を招致すれば、そのための何ができるか』ということ。そこの問いの順番は、すごく大事なことです」

「札幌市は招致によってウィンタースポーツを楽しめるリゾートシティーを実現したいと。だったらなぜ、『気候変動問題に関して、この五輪で何をするか』が出てこないのか。せっかく作ったリゾートも、20年後には肝心の雪がないかもしれない。今はそれほど深刻な状況です。何のために五輪を招致するのか。その問いを立てられないまま進めても、東京の二の舞いになるだけ。逆に言えばまず『社会をどうするか』ありきなら、招致に失敗しても意味がある。逆説的ですが、そのような問いがあってはじめて招致することに意味を発生させられるのではないでしょうか」

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年10月24日号より抜粋