前へ、高みへ。羽生結弦がやるべきことに全精力を傾ける姿勢は変わらない。プロのフィギュアスケーターとして、ファンと共に幸せをかみしめる舞台への準備に余念がない。AERA 2022年10月10-17日合併号から。
【写真】蜷川実花が撮った!AERA表紙を美しく飾った羽生結弦
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プロ転向を宣言したあと、少しはスケート以外の楽しみを持ち、心身を休める時間ができたのかと思い、尋ねてみた。答えは予想したものではなかった。
「ほっとしたとか、落ち着いたとかは、全然ないです。プロになって1年目ですし、ルーキーみたいな感じで、やれることをしっかりやっていこうっていう意識が強いですね」
この言葉を聞いて、質問した自分の間違いに気づいた。そう。いま話を聞いている相手は羽生結弦だった、と。
挑み続けることに力を注ぎ続けてきた人だ。練習拠点だったカナダ・トロントでは、観光地にも、ダウンタウンにも行かないし、自分自身を「漫画やアニメに出てくる熱血系のアスリート」だと、2014年の夏に話していた。お気に入りの場所を聞かれ、「リンク」と言ったこともあった。何度か食事に誘って断られたスケート仲間が、いつになったら一緒に行けるのかを聞くと、「引退してからかなあ」と答えたという。