TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。「映画『ゾラ』」について。
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「フロリダでダンスしたら一晩で5千ドル稼げるよ。一緒に行かない?」
デトロイトに住むウェイトレス兼ポールダンサーのゾラは、勤め先のダイナーで知り合った白人の美少女(実はシングルマザー)、ステファニから誘われた。
「あんたのおっぱいってリンゴみたい」と言われ、気をよくしたゾラは「あんただって可愛いよ」と褒め返し、「私たち親友だね」と意気投合、翌日から旅に出る。
黒人の女の子の旅を綴(つづ)った148のツイートを映像化、「私とこの子の話、聞きたい? ちょっと長くなるけど」から始まる青春映画『ゾラ』はサンダンス映画祭で喝采を浴び、公開されるやミッシー・エリオットやケイティ・ペリー、カニエ・ウェストらが熱狂するスマッシュヒットになった。
女の子同士の友情、フロリダのカラフルな陽光と犯罪のどす黒い影。カーラジオからはアッシャー、ミーゴス、2チェインズのヒップホップが大音量で流れてくる。
ポン引き男Xがリーダーの出稼ぎ道中は悪夢の連続で、トラブルばかりの危険極まりない道中だが、「私はプロのダンサー。踊りできちんと稼げる。ウリ(売春)はしない」と主人公はあくまで自分を貫く。
ゾラの視点は一貫して冷静だった。それを監督のジャニクサ・ブラヴォーに告げると、「彼女のツイートを読み込んだら自分の気持ちを整理しながら何度も書き直しているのがわかった。そこから客観性が生まれたのかもしれない。それが彼女のクールさ(知性)につながっていた。だって文学は観察者のものだから」
Zoom画面のブラヴォー監督はグレーのベースボールキャップに白いTシャツ。彼女はニューヨーク大学で演劇演出と舞台美術を学んだ。
「ゾラのツイッターに興味を持ったのは2015年10月だった。風俗にかかわる仕事をしている彼女の生活には人種、政治、格差の問題も出てきた。彼女の生き方に自分の体験を投影しながら反骨とエンタメのバランスを考えた。大事にしたのは笑い。人種問題にしても、あまりにそれがシリアスだと笑うべきことではないのに噴き出してしまう。そんな笑いの本質を追い求めて作っていったんです」