浪曲は三味線の伴奏に乗せて節(メロディー)と啖呵(セリフ)で物語を語っていく音楽性の高い話芸だが、その内容は古臭いと枕詞のようにずっと言われ続けてきた。

「太福のように、職場の上司と部下が弁当のおかずを交換するだけなんていう爆笑の作品が今出てきたけど、これまで浪曲がずっと聞かせてきたものだってその時代の“現代”なんだ。忠君愛国や大義などに押し潰される人情という一部のどうしようもない古いネタのイメージだけで古臭いとされてしまってきた。だいたい義理人情という言い方も間違い。正しくは義理と人情の間で押し潰される哀しみというべきだ。これは昔も今も変わらない普遍的なテーマで浪曲は古臭いと決めつけずに耳を傾けてほしい」

 インタビューの文章では伝わりにくいが著者の口調は軽妙で時に辛辣で痛快だ。そして『浪曲論』という武張った書名だが筆致も同様にきわめて軽快、時に噴き出すほど可笑しい。それでいて浪曲のほぼすべてがわかるのだから有り難い。よく講演などでも長躯に着流しをまとって登場する。取材当日も着物姿でと強く所望されたが生憎の土砂降りの雨で断念した。しかし撮影時には見事な快晴。「ま、人生こんなもんですよ」とニヤリ。(古典芸能エッセイスト・守田梢路)

AERA 2022年9月26日号

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