
世間の常識から外れてしまった人たちの日常を描いてきた荻上直子監督。最新作「川っぺりムコリッタ」でもそれは変わらない。原点は20代のアメリカ留学にあった。
2006年に公開され、日本中に北欧ブームを巻き起こした「かもめ食堂」、日本映画初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞を受賞した「彼らが本気で編むときは、」などで知られる荻上直子監督は、多摩川の“川っぺり”に住んでいる。
「川って、天気や時間帯によって、ビックリするぐらい表情が違うんです。川を囲む景色もそうで、ホームレスの方が、すごく気持ちよさそうに日光浴をしている日もあれば、台風でブルーシートごと流されて、命を落とされてしまうこともある。数年前に多摩川が氾濫(はんらん)したときは、うちにも避難勧告が来ました。川辺に住んでいると、住宅街のど真ん中に住んでいるよりも、少しだけ、“死”が身近にある気がする。でも、不思議なことに、引っ越しをしても、また川辺に住みたいと思ってしまうんです」
そんな監督の最新作が、「川っぺりムコリッタ」だ。松山ケンイチさん演じる山田は、北陸の小さな町の塩辛工場で働き口を見つけ、「ハイツムコリッタ」という築50年のアパートで暮らし始めることで、“ささやかなシアワセ”に気づきはじめる。ムコリッタとは、仏教の時間の単位の一つで、30分の1日=48分を指す。映画を通して、世間の常識から外れてしまった人たちの日常を描いていきたいと考えている監督自身、家族も生きがいもない山田には、どこか似ている部分があるという。
「山田は生きることに貪欲ではなく、いつ死んでもいいと思っている人ですが、私も30歳になったとき、『少なくとも60歳まで生きるとしても、まだ30年も生きなければならないのか』とうんざりした記憶があります。生に対する執着心があまりないせいか、今も、長生きしたいとは、あんまり思わない。明日死んでいいかっていうとそんなことはないんですけど(笑)」