
支払いは現金のみ。電子決済が多くなって生憎(あいにく)1万円札しか手元になく、コンビニの前で停めてもらって水を買って崩していると、運転手さんが店に入ってきて横に立ち「お客!お客!」と急かします。次のお客さんが見つかったので早くよこせということのようです。私に釣りを押し付けて店員さんから千円札を2枚取ろうとしたので、さすがに「待ってください」と制し、お札を渡して、ひったくるように受け取って立ち去る背中を見送りました。やり場のない、重い気持ちが今も胸に残っています。
◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。
※AERA 2022年9月19日号