<ライブレポート>「私を見つけてくれてありがとう」感謝して、次の10年へ――Aimerが10周年ライブで伝えた想い
<ライブレポート>「私を見つけてくれてありがとう」感謝して、次の10年へ――Aimerが10周年ライブで伝えた想い

 「これからもこの声が出る限り、歌をうたっていきたいです。音楽を通してあなたと一緒に生きていきたいです。今夜その席に座ってくれている一人ひとりのあなたへ。この10年のどこかで、私を見つけてくれてありがとう」

 デビュー・シングルで自らのことを肉眼で見える最も暗い恒星に喩えたシンガーは、10年後、アニバーサリー・ライブに集まったファンへ「見つけてくれてありがとう」と伝えた。神奈川・大阪で計4日間にわたって開催されたAimerのアリーナ・ツアー【Aimer 10th Anniversary Final "Cycle de 10 ans"】、10月1日・ぴあアリーナMM公演での一幕である。

 この日Aimerは、10年の歩みと変化を辿るようなセットリストを披露。星空を模した光が上空で瞬くなか、SEの「TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」をバックに登場すると、1曲目にはデビュー・シングル収録の「悲しみはオーロラに」を、2曲目にはデビュー翌年リリースの「あなたに出会わなければ~夏雪冬花~」を届けた。場内はほとんど真っ暗。音楽と観客が一対一になれる環境で、バラード2曲が静かに歌われる。“ずっと暗がりの中にいた”というデビュー当初のAimerの感覚を反映した演出だろう。ツアー・タイトルの“Cycle de 10 ans”とは、フランス語で“10年のサイクル”という意味とのこと。

 「10年という時間の中で私はみなさんと出会えました。いろいろな国の、いろいろな世代の方と出会えました。そして、今日初めて出会えた方もたくさんいると思います。そういう10年がまた始まるんです。これまでの10年を辿りながら、これからの10年を描けるように、あなたに歌っていきます。今日の私の全てで歌います。最後までよろしくお願いします」

 最初のMCでAimerはそのように語ったのだった。「次は私が初めて熱い光を感じた曲たちを歌います」と、大きなスクリーンに眠りの森を映しながら披露したのは「RE:I AM」「LAST STARDUST」で、「この10年の中でたくさんの曲が生まれました。まるで“真昼の夢”を見ているみたいにたくさんの出会いがありました。次はかなり久しぶりに歌う曲です」と紹介したのは、2016年リリースのアルバム『daydream』に収録の「Stars in the rain」。続く「Hz」も『daydream』収録曲で、Aimerの「拳上げてー!」という声に誘われて観客は立ち上がり、リズムに乗って身体を動かし始めた。

 「Ref:rain」「Black Bird」を歌うとともに、2018年を「思えばこの曲を歌い始めた頃は、ようやく人前で、(リスナーと)向き合って、歌をうたえる自分を見つけた時期でした。私自身がこの音楽に素直に、ありのままでいればいいんだと気づいた時期でもありました」と振り返ったあとは、「次の曲はもっともっと深く浸ってみますか?」と「I beg you」に突入。Aimerのアカペラにギター・フレーズが重なるオープニングからしてミステリアスで、ステージ上ではスモークが焚かれた。歌唱はもちろん、曲間の語りや演出含め、全体から感じられたのは、アーティストとして自身が歩んできた道のり、見てきた景色を観客に丁寧に伝えたいというAimerの意思だ。さらに言うと、10年のどのタイミングで出会った人も等しく大事であり、誰一人置いてけぼりにしたくないという想いすら感じる。音楽を通じて出会えたあらゆる人への感謝、一つひとつの縁を大切にしたいという彼女の気持ちによって、アニバーサリー・ライブは形作られていた。

 今年8月にリリースされたばかりの「オアイコ」まではリリース順通りの曲順。その後は「オアイコ」の温かいムードを引き継ぐ形で「カタオモイ」が演奏され、「私が腕を回したら一緒に回して、ジャンプしたらジャンプするんだよ? いい? 見てるからね?」と「We Two」でポップに弾けた。イントロ前にバンド・セッションを設けたアレンジで披露されたのは「残響散歌」で、打ち上げ花火の映像を背負いながら、起伏に富んだメロデイを歌い、疾走するバンド・サウンドを乗りこなすAimerである。バンドの音に身を揺らしながら歌う姿は衝動に突き動かされているように見えるが、一方、リズムをあえて後ろに引っ張るBメロのニュアンスなど表現力も光る。TVアニメ『鬼滅の刃遊郭編のオープニング・テーマとして人気のこの曲を楽しみにしていた観客もきっと多かっただろうが、ここをピークとせず、勢いそのままに「SPARK-AGAIN」に入る展開が心憎い。引き続きスピードとスリルに満ちた演奏が繰り広げられるなか、スクリーンには噴き出し花火の映像が映され、さらにクライマックスではスパークラーの特効もあった。

 「ONE」では上手へ下手へと走っては観客と目を合わせながら手拍子し、「みんな最高だね」と笑うAimer。「早いもので今夜のこの時間も終わりが近づいてきてしまいました」と本編ラストのMCではこんな言葉を届けた。

 「その席にいてくれているあなたと同じように、10年以上前の私も眩しいステージを眺めていました。あの頃の私には本当に音楽しかなかったんです。だけど音楽に救われて、心から好きになれるこの音楽だけをただ一生懸命続けてきました。そうやって続けていったら、こんなに素晴らしい、たくさんの出会いがありました。この10年、一緒にいてくれてありがとう」

 観客からの温かい拍手を受け取ったあと、さらにAimerは続ける。

 「一人でも多くの人が音楽を好きになれる瞬間を作っていけるように、まだまだ歌っていきたいです。これからの10年、必ず一緒にいてください。音楽を作り続けて、歌い続けるから、ずっと一緒にいてください。それが私の何よりの願いです。最後の曲は、今日あなたが一緒に作ってくれたこの時間に感謝して、これからの10年を祝って歌います」

 本編ラストは「蝶々結び」。鍵盤とともに歌い始めたAimerの声は温かく、彼女がステージで両手を広げるなか、光が客席へと伸びていく光景が美しい。また、アンコール1曲目には、「キズナ」を披露。まさに今歌われるのを待っていたかのように、歌詞の内容が先のMCとリンクしている。<たった一人で歩いてきたと 思ってたあの日/本当はいつも どんな場面にも“誰か”がいたんだ>といった言葉たちを、改めて自分の言葉として発していく10周年のAimerだ。

 そして最後には、デビュー・シングル表題曲「六等星の夜」を「私の始まりの曲」と紹介して届けた。ステージ上空には星が一つ輝いている。肉眼で確認できるギリギリの明るさでも、ここにいるみんなには確かに見えている六等星だ。<こんなちいさな星座なのに/ココにいたこと 気付いてくれて ありがとう>とAimerが歌う。始まりの曲でライブを終える構成が表現するのはまさに“Cycle de 10 ans”。10年間ずっとあったファンからの愛を感じながら、ここからまた始まっていくということだろう。音楽を媒介に人と人とが繋がるということ。ささやかだが紛れもない奇跡を愛おしむ心で見事な円環を描き、10周年の幕を閉じたのだった。

Text:蜂須賀ちなみ
Photo:加藤アラタ

◎公演情報
【Aimer 10th Anniversary Final "Cycle de 10 ans"】
10/1(土)会場:ぴあアリーナ MM
10/2(日)会場:ぴあアリーナ MM
10/15(土)大阪城ホール
10/16(日)大阪城ホール