藤井聡太が王位戦で3連覇を果たし、史上最年少でタイトル10期を獲得した。周囲を驚かす「新感覚」の強さを披露。「史上最年少六冠」の可能性も見えてきた。AERA2022年9月19日号の記事を紹介する。
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「自信のない将棋だったんですけど。崩れずに指すことはできたのかな、と思います」
涼やかな色合いの和服に身を包んで戦った若き王者は、謙虚にそう振り返った。
9月5、6日、静岡県牧之原市での王位戦七番勝負第5局で、藤井聡太王位(20)は128手で豊島将之九段(32)に勝利。藤井は4勝1敗でシリーズを制し、防衛、3連覇を達成した。
藤井は史上最年少20歳で、タイトル獲得数が通算10期に達した。歴代9位の記録である。
「あまりタイトル獲得数自体は意識していることではないので」
藤井はこれまで通り、自身が達成した大記録には興味がなさそうだった。
もし20歳で四段に昇段し棋士となれば、前途洋々たる若手と見てよい。20歳で1度でもタイトル挑戦をすれば、将来を嘱望される超有望株だ。それが一度も番勝負で敗退することなく、20歳でタイトル獲得10期となれば、形容する言葉を探すのは難しい。なにしろこれまで、そんな棋士はただの一人として存在しなかったのだから。
「史上最強」と言われる羽生善治現九段(51)は20歳で2期。23歳で10期だ。
「これほど常識外に強い棋士は、自分の生きているうちに現れることはないだろう」
■羽生のペースを上回る
羽生の活躍をリアルタイムで見た人々の多くはそう感じたのではないか。その羽生のペースを藤井ははるかに上回っている。
昨年に続き2年連続で挑戦に名乗りをあげた豊島が、弱かろうはずがない。挑戦者を決めるリーグ戦では藤井と同世代で大器の呼び声が高い伊藤匠五段(19)ら若手に勝ち、実力を見せつけた。豊島は今年度、藤井以外にはほとんど負けていない。
七番勝負第1局は豊島が先手。現代将棋の最前線ともいえる「角換わり」を採用した。両者ともに得意とする戦型であり、本シリーズ5局はどちらが先手でもすべて角換わりとなった。
「豊島九段とテーマとする局面がある程度重なっていたところはあったのかな、というふうには感じています」
藤井はそう振り返った。その上で、豊島の準備は広く深く周到だった。成算がなければとても踏み込めない順を終盤の領域まで躊躇(ちゅうちょ)なく突き進んでいく。研究もまた実力のうちである。特にコンピューター将棋(AI)を駆使してのストイックな研究は、トップクラスでは必須だ。