今はまだ、日本は「安くておいしい国」として名を馳せている。久しぶりに日本に一時帰国した米国駐在のサラリーマンが、外食コストの安さに改めて驚き、「毎日がパーティーだ」と喜んでいるという話もある。だが、これを支えてきたのは、味のわかる顧客である。もしそうした人々がいなくなれば、安くてまずいものや本物のように見えるまがい物が増えるのは必然だ。
あと数年すると、本物の美味を味わえるのは、ほんの一握りの超高級店だけとなり、ほとんどの店がC級品を扱うようになるだろう。
世界一美味しい寿司は、ニューヨークか北京でしか食べられない、しかも、さらなる円安で一人前10万円もするので日本人には手が出ない、なんてことも十分起こり得る。
日本が、「安くてまずい国」「ホンモノを知らない国」になってしまうのだ。
日本の国力低下をそんな形で確認する日が来るのは決して見たくないのだが。
※週刊朝日 2022年9月16日号