古賀茂明氏
古賀茂明氏
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 カフェでコーヒーを飲むとき、小さなパックに入ったミルクポーションと呼ばれる植物性油脂が出てくるのが普通になってどれくらい経つだろうか。始めの頃は、本物のミルクを頼むと、温めたミルクや生クリームを持ってきてくれることもあったが、今は、「ありません」とあからさまに嫌な顔をされることがある。どうしてかと思ったら、店員の中に、ミルクとミルクポーションの違いを知らない人がいるのだ。

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 ケーキに使われるクリームでも生クリームの代わりに植物性油脂のホイップを使ったものが増えている。そして、ここでも生クリームとホイップの違いを知らない人がいるらしい。ホイップを使うのは、基本的に安いことが一番の理由だろう。日持ちが良く使い勝手も良いので、食べる人が味の違いに気付かないなら、ホイップの方が優勢になる。

 ただ、両者の違いを知った上で、本当にホイップが美味しいと思ってそれを選ぶのなら良いのだが、そもそも違いがあることを知らなかったり、食べても違いが分からないとなると話は別だ。

 日本では、庶民の賃金が上がらず、生活は一昔前に比べると苦しくなっている。お菓子屋としては買ってもらえなければ生活できないから、どうしても安い原材料を使って価格を抑えようと考える。クリームだけでなく、バターの代わりにマーガリンや植物性油脂を使うのも同じだ。こうした「顧客本位」の動きは、驚くことに老舗と言われる店にも見られる。その結果、本物の味を知らない人が増えてしまう。生クリームの「あの」味と口溶け感やクッキーを食べた時のバターの「あの」風味をわかる人がいなくなるのだ。

 実は、同様の現象はあらゆる食べ物で広がっている。特に、昨今の円安が追い打ちをかけてあらゆる食料品や原材料が高騰している。マグロなどの魚介類や牛肉などで「買い負ける日本」という記事も見飽きるほど読んだ。そして、飲食店や加工食品を販売する企業は何とか消費者の購買力低下に見合った価格を提示して売り上げを維持しようと、寿司ネタをはじめ、代替品を使うなどの涙ぐましい努力を続けている。それはそれで庶民から見るとありがたいことなのだが、これが続くとどうなるか。

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「安くておいしい国」いつまで…