人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「森英恵さんを偲ぶ」。
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東京の銀座四丁目交差点から一本入った通りに、その店はあった。森英恵さんのお得意様のためのサロン、どのくらい通ったろう。
まだ私がNHKのアナウンサーだった頃、後に女優となった野際陽子さんが、ショーの際のナレーションを手伝っていた。野際さんがNHKをやめ、私が後を引き継いだ。
その店は決して大きくはない。一階がブティックの売り場で、二階がサロン風になっていて、特別なお客様のための少人数のショーがシーズンごとに開かれた。オートクチュール専門のショーで、客も厳選されていたが、モデルも7、8人で一人一人個性のある魅力的な女性だった。
もっとも可憐で花があったのが、小澤征爾夫人になった、ベラちゃんこと入江美樹さん。洋服の着こなしでいえばパリコレでカルダンのモデルになった松本弘子さん。そのセンスはずば抜けていた。その他客に合わせ中年の知的なモデルを配置していた。
私もナレーションを忘れて自分が身につけることばかり考えていた。
短いナレーションに、私はアドリブで季節感のある言葉を並べた。