
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。
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モノの数だけ、人のこだわりが存在します。加えて、企業は新しい価値を創造するために新しいこだわりを提案し、消費者はそれが自分を満足させる新たな指標になるか、己に問う。現代における消費活動は、その作業を無限に繰り返すことでもあります。
なーんて小難しい話から始めましたが、私には俗にいう「こだわり」がほとんどありません。新商品の謳い文句に誘われて、気軽にポイポイかごに入れてしまう。レストランのメニューで悩むこともない。なぜなら、考えるのが面倒くさいから! 私のような消費者だらけだったら、メーカーのマーケティング部は毎晩枕を高くして眠ることができるのに。
一方で、モノに強いこだわりがあり、購入に際し何度も吟味することに価値を置く人もいます。友人にキッチン用品好きが2名おりまして、その2人と私の3人でやっているグループLINEがあるのですが、先日ちょっと目を離したら未読が160件! なにごとかと思えば、延々と2人でミキサーの話をしていました。ミキサーって言ったら怒られちゃう。いまはブレンダーと言うのだそう。
こだわりポイントは、氷が砕けるか、故障が少ないか、回転数、手入れは楽か、長く回しても途中で止まらないか、容器の材質、蓋の形状、などなど。先日、アマゾンでベストセラー1位の小型ミキサーを、なにも考えずに買ったことなど恥ずかしくて言えません。そういえば、価格コムで数々のレビューを読むだけで、頭がボーッとしてきてしまうような人だった、私は。
キッチン用品マニアの2人から選ばれた最優秀商品は、海外製の本格ブレンダー。なんと、お値段8万円! そりゃあ吟味を重ねなきゃね! 業務用でもないのに、ミキサーに8万円出そうと思う消費者がいることを、私は初めて知りました。