タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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 このほど『おっさん社会が生きづらい』という対談集を上梓しました。同調圧力とハラスメントと忖度(そんたく)で回る世の中に息苦しさを感じている人に向けて、なぜそのような世の中なのかを共に考え、思考法と行動を変えて楽になる方法を模索した一冊です。対談相手は文筆家・清田隆之さん、「男性学」研究者・多賀太さん、小児科医・谷晋一郎さん、小説家・平野啓一郎さん、社会学者・上野千鶴子さん。男性が多いのは、ジェンダーについて考えることに抵抗のある男性にも手に取りやすい本にしたかったのと、いわゆる“おっさん”とは何かを当事者性を含めて考えたかったからです。

 あえて“おっさん”という言葉を使ったのは、日本の社会の意思決定層は圧倒的にそう呼ばれる男性たちが占めているからです。本来は単に中高年男性を指す“おっさん”という素朴な呼称が、なぜネガティブな意味合いを込めて用いられているのか、それに該当するのは具体的にどんな人物なのかを考えました。“おっさん”を“おっさん”たらしめるものが何かを探ると、現在の日本社会が抱える問題が浮かび上がってきます。

 では、女性である私は当事者ではないのか。いいえ、もともとこの本を作ろうと思ったきっかけは、自分こそがいわゆる“おっさん”であったと気づいたことがきっかけでした。この社会で暮らしているうちに、独善的な態度や思考停止の習慣が染み付いていたことに気がついたからです。そのような傾向は誰の中にも多少はあるものです。でもそれを肥大化させないと生き延びられない社会に私たちは暮らしているのではないか。それが成長につながった時代はもう終わっているのに、まだ変われずにいるのではないか。そんな疑問を識者の皆さまにぶつけました。「自分は違う」と思った方もぜひ、お読みいただければ幸いです。

知らず知らずのうちに、私たちは独善的になり、思考停止していないだろうか(写真:gettyimages)
知らず知らずのうちに、私たちは独善的になり、思考停止していないだろうか(写真:gettyimages)

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2022年8月29日号