「自分にも家族がいて、転職したほうがいいと焦りました。誘ってくれる会社もあった。それでも、社長にはやんちゃだった自分を拾ってもらって、大病したときには手術費用も出してもらった大恩があったんです。潰れるまではこの会社にいようと決めて、営業に駆け回りました」

 最終的に会社は買収され、結果、男性の給与も増えたという。

 都内の広告会社に勤める平野陽子さんが人生の指針にするのは、徳川家康。家康は3歳で母と別れ、幼少期を人質として過ごす。独立したのちも、信長から内通疑惑をかけられた正室・築山殿(つきやまどの)を殺害、嫡男の信康を切腹させた。平野さんは、家康の人生を「運が最悪のところから始まっている」と評する。

「自分の意思を通すことができない状態ですが、不安になって暴走したり、感情的になって何かを投げ出したりせず、強い自制心を持って常に抑制して行動していることがわかります。この自制心は社会を生き抜く上で参考にしています」

 キャリアを続ける中で、「半沢直樹がかわいく見える」ほどの仕事の妨害や理不尽な経験もしている。SNSに拡散希望の公開投稿をして炎上させればそのときはスッキリしただろう。

「けれど、『感情的にSNSで暴露する』というレッテルが貼られると自分の将来にとってマイナスだし、そうなると相手の思うツボです。理不尽なことを理不尽だと騒ぐだけでは、さらなる理不尽を呼び込むだけだと考えて、グッと我慢した。抑制的にひとつひとつ状況を洗い出し、仮に裁判になってもいいように証拠を保存して弁護士にも相談し、理論武装したうえで解決に臨みました」

 平野さんは、戦国時代と現代の共通点をこうとらえる。

「戦国時代は、それまでの国のシステムが機能しなくなって不確実性が上がった時代だと思います。現代社会でも、物価高が続き政府が諸課題にフレキシブルに対応できないケースが目立っている。そんなときだからこそ、地域がどう動き、個人がどう生きるのかが問われていると感じます」

 安土桃山時代まで含めた戦国の世が終わり、420年。社会も人の生活も様変わりした。それでも、乱世を駆け抜けたもののふたちの生きざまに、時代を生き抜くヒントが隠されている。(編集部・川口穣)

AERA 2023年1月23日号より抜粋

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