アテネ国際空港。ワクチン接種証明を頻繁に出す旅はここからはじまった
アテネ国際空港。ワクチン接種証明を頻繁に出す旅はここからはじまった
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「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。今回は、ワクチン接種証明書について。

【動画】コロナ禍のエーゲ海の島の様子

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 11月のアテネ国際空港。エーゲ海に浮かぶパロス島に向かう飛行機のチェックインカウンターで、僕はパスポートと航空券の控えを出した。するとスタッフは、パスポートを開きもせずに、「ワクチン接種証明を」といわれた。パスポートより大切なもののように。

「あれだろうか……」

 僕はPassenger Locator Formという書類を鞄からとり出した。これはギリシャ入国を前に、ワクチン接種や健康状態などを記入し、送信。ギリシャ政府からQRコードと一緒に届く書類だった。ギリシャ入国時に提示していた。

「いや、それじゃなくて、本物のワクチン接種証明。スマホに入ってませんか」

「日本はデジタル化していないんで……」

 僕は再び鞄のなかに手を入れ、東京の区役所が発行してくれたワクチン接種証明書をとり出した。市区町村によってスタイルが違うのかもしれないが、僕が手にするそれは英語も併記されてはいるが、日本語のほうが文字が目立つ。スタッフはしばらくそれに視線を落とし、顔をあげると、

「OK」

 と笑顔をつくってくれた。

 ギリシャでは、ワクチン接種証明がこれほど大切だとは思ってもみなかった。

 パロス島に着き、島の中心、パリキアにある携帯電話ショップに入ろうとした。スマホ

にシムカードを入れようと思ったのだ。すると入口で「ワクチン接種証明を」といわれた。ほかの客はスマホの画面にQRコードを出し、それを読みとってすぐに入っている。しかし僕はそういかない。空港でのこともあり、紙のワクチン接種証明を出すと、「これはなに?」という表情が返ってきた。

「QRコードはないですか」

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それ以上に問題なのは……