問題の背景には日米地位協定の歪(いびつ)な現実の放置という歴史があります。同じ敗戦国であるドイツやイタリアと違い、日本は米国大使館だけでなく米軍基地にも管理権が及びません。米軍は日本の検疫システムをスルーして出入国を繰り返し、基地の外にも繰り出していたのですから、米軍基地が感染のスプレッダーになっていたと言えます。
欧州で最大の米国の空軍基地があるドイツのラムシュタインでは、市長に立ち入りの通行券が発給されています。また、国内法の適用が認められ、基地への管理権が承認されています。地位協定においては日本よりも不利と言われている韓国でも、情報の共有がうまく機能していないとはいえ、新型コロナに関しては、在韓米軍と基地の地域自治体との連絡協議会のようなものができています。
日米地位協定を即座にNATO並みにしろというのは、現在の日米関係の現状を見る限り、困難です。最終的にはそこを目指しつつ、日本の防疫体制に準ずるものを米軍が順守し、その保証を何らかの形で、日本側が地元の自治体も含めて確認できるような担保が必要です。
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
※AERA 2022年1月24日号