姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 1月9日、日米両政府は在日米軍のコロナ感染拡大の対処策に関する共同声明を出しました。あまりにも遅すぎる対応に国民の不信感が募っています。

 米軍基地問題では沖縄と「本土」の温度差がありました。しかし、今回の感染拡大は山口県の米軍基地と、広島県も加わっています。広島は岸田文雄首相、山口は安倍晋三元首相、林芳正外務大臣のおひざ元であり、政権中枢の地盤です。もしこれが沖縄だけの問題であれば「本土」と切り離されて、地域的な「特殊性」として処理されたかもしれません。

 しかし、今回は国民の生命や健康、日本の経済的な賦活にもかかわる問題であり、岸田政権の対応が弱腰であれば国民の不満が収まらず、日米同盟にも隙間風が吹きかねません。中国の脅威が現実のものになりつつあり、北朝鮮がミサイル開発や発射を続けている現状で、安保の安定的な運用や日本の安全保障のためにも、米軍の兵士や軍人・軍属の感染抑止に向けた取り組みと実効性を検証できる連絡委員会のようなものが必要です。

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