人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、詐欺電話について。
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某家電量販店の店長という男性から電話がかかって来た。
中国籍の五十代の女性が、私のクレジットカードを使って買い物をしたが、どうもあやしいので、カード会社と最寄りの警察署に連絡した。いま警官が来て身柄を拘束しているので、警官から私に電話をしてもらうという。カードの種類と私の名前は合っている。念のため、店長の氏名、電話番号を確かめると、スラスラと答えがあった。
五分ほどして、最寄りの警察署捜査二課の某という人物から電話がある。
氏名と電話を確かめ、話を聞くと、私のカードを偽造し、不正使用した疑いで、どうも六月頃に作成して、何度か使っているようだという。詳しくは金融庁から電話をさせますという。
どうも変だ。カードが盗難にあったり、偽造されたりしたら、カード会社に連絡して利用を止めてもらえばいいはずだ。もう少し向こうの話を聞いてみたい興味はあったが、面倒なので、つれあいに電話を代わってもらったら、向こうから切れた。
やっぱり予想通り詐欺電話だったのだ。私が聞いておいた量販店に電話をすると「違います」という答え。最寄り警察だという電話番号へもかけたが「この電話は現在使われておりません」。
実際の警察署の番号とは局番が一番違うだけだ。
なるほど手が込んでいる。こういう電話は喋り方で見当がつくのだが、量販店の店長を名乗る男は実にしっかりした話し方で、流暢である。
警察官を名乗る男はちょっと東北の方言があるが、これも警察官には時々ある。
決してこちらから何かを聞き出すのではなく、被害者によりそう風を装って、ますます手口は巧妙になっている。喋り方も、特訓で練習しているというし、敵もさるもの、夕方五時過ぎという業務が一番手すきになる時を狙うという。