──そっくりだ(笑)。

「そうしたら年かさの人が『オイオイ、これ大丈夫か?』と言うから、『いや一言も本人とは言ってませんよ。アッ、ソウと言っただけです』と返したらOKとなった。そのときに皆笑っているんだけど、半分心配そうで。僕も気が小さいものですから、ここはカットと言われるんじゃないか、そう考えちゃう自分が嫌で断ってしまうんです」

──自分の気の弱さを理由にするところが松元さんなんでしょうね。

「そうですか。でも、外国では僕がやっているのなんて当たり前らしいんですね。ドイツから来られたクララさんというひとに言われたんです。向こうのテレビ番組を思い出してホームシックになったって。イギリスであればロイヤルファミリーをネタにするのは当たり前、アメリカなら大統領の悪口を言う。だけど、日本は誰もそういうことは言わない。だから『ヒロさんを観て涙があふれた』って。うれしかったですねえ」

──この間コロナで劇場も制限があったりして大変だとは思うんですが。

「客席が半分だと笑いの空気が伝わっていかない。笑いはサンミツでないといけないですから」

「テレビで会えない芸人」は冒頭シーンからハラハラ惹(ひ)きつけられる。渋谷のスクランブル交差点の側で松元ヒロが取材を受けている。すると「助けは必要ですか?」と声をかける。視線の先には白杖の女性が立っている。女性が松元の肩に手をあて交差点を渡り、ふたりがエスカレーターに乗る。そして山手線へと乗りこんでしまう。

「こないだも、やっているんですよね。1カ月くらい前かなあ。白杖をついている人を電車で見かけ『ココ、あいてますよ。ほら、ココですよ』と。でも若いときは、声だせなかったんですよ」

──途中「自分はテレビに映らない芸人なんですけど、テレビカメラが撮っているんです」と自己紹介すると、女性がくすっと笑う。

「あのシーンで俺、いい人間ぶりを発揮しましたよね。それで今度、映画館でやるでしょう。あのギャラは?と聞いてみたんです。あれ、いくらもらえるんだと友達から聞かれたもんですから。そうしたら『ギャラ払ったらドキュメンタリーではなくなるんですよ』って。お金もらったら、演技になっちゃうからねぇ」

 松元さんの舞台は年2回、紀伊國屋ホールを振り出しに新ネタで全国を回る。ひとりしゃべりのせりふはパソコンで書き上げ、赤鉛筆を入れてゆく。稽古場でそれをもとに演じ、削りこむ。その現場も撮られている。

(聞き手・構成/朝山実)

週刊朝日  2022年2月11日号より抜粋