そしてこの度、ようやく『老後とピアノ』の刊行にこぎつけることができました! いやーよかったよかった!
会社を辞めて6年。一冊の本を出すという作業の途方もなさが年々身にこたえる。最初の本を出した時は、何冊か書いていけばいつかは慣れると希望を持ったりもしたがとんでもなかった。これが加齢というものなのであろう。ちょっと前までできたことが、今はできないということはもはや日常。昔は机の前に座ったら何かが「降りて」くる感覚があった。でも程なくして、見事なほど何も降りてこなくなった。なのでこちらから迎えに行った。そしてたちまちその段階も過ぎ、今じゃあ「引きずり下ろす」感じである。そんなんでいいのかと思ったこともあったが、んなこと言ってる余裕もなくなった。
嘆いても絶望しても始まらない。咳(せき)をしても一人である。結局のところ選択肢は「やるか」「やらないか」の二択であり、「やる」と決めたらどんなダサい道筋をたどっても自分なりにやり切るだけだ。
今では衰えることの恐ろしさも楽しみながら生きるしか無いという心境である。それはピアノにおいてもまったく同じで、おそらくそれでいいんだと思っている。
老いは予測のつかない冒険ですね(ハート)
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年2月7日号