元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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50歳で会社を辞めてから、長い間夢見ていた40年ぶりのピアノレッスンを再開し、まもなく4年になる。
しかし時の流れとは誠に恐ろしいもので、張り切って再開したはいいが、楽譜はまるっきりの暗号にしか見えないわ、指は岩のように動かず、頑張って動かそうと根性出したら体を壊すわ……。全く我ながら笑っちゃうような苦闘ぶり、そして開いた口も塞がらぬ驚くべき進歩のなさ! それでもなぜか練習が楽しくて仕方なく、最低2時間は喜々としてピアノに向かう日々を重ねて今に至る。
このナゾすぎる、しかしそれゆえに、この効率主義・成果主義の満ち満ちた世の中において、それとは異次元すぎる爽快な現実を絶対本にしたいと思っていた。