バナメイエビ
バナメイエビ

「日本人はエビが大好きで需要がある」とみて、バナメイエビを“休耕地養殖”する会社を夫婦で始めた平野彩さん。バナメイエビは世界の食用エビの7割を占め、病気に強く、短期で収量を上げられるという。2021年11月下旬に本格出荷を開始した。

【写真】休耕地のビニールハウスでエビを養殖

 画期的なのは、いくつもの社会的課題を解決できること。休耕地を利用して温度管理などが難しかった陸上養殖に成功した。海面養殖のような海洋汚染がないほか、冷凍輸入エビと違い、消費地の近くで養殖するため、生きたまま出荷できる。

 実は、「日本でエビの養殖はあまりされていない」(日本水産の担当者)。暖かい気候の海外の養殖地と違い、温度管理が難しいためという。日水も温暖な鹿児島県南九州市の陸上でバナメイエビを養殖するが、まだ実証実験を続け、限定販売の段階。大手の日水といえども、「過去に海面での養殖でいろいろと知識はあるが、陸上ですぐにとはいかない」(同)。

 平野さん夫婦は16年に中国・青島の研究所と協力して「マイクロ/ナノバブル発生装置」を使い、バナメイエビの養殖実験を実施。17年に現法人を設立し、19年に千葉県鋸南町に農地を確保した。

 海面養殖は漁業権の問題で新規参入できないが、「陸上でなら何とかなる」(日水の担当者)。

休耕地のビニールハウスでエビを養殖(平野さん提供)
休耕地のビニールハウスでエビを養殖(平野さん提供)

 平野さんが目をつけたのが休耕地。「よそ者に貸せないとハードルが高かった」(平野さん)が、協力的だった鋸南町で農地を借りることができた。「日本で田畑を利用した養殖はほとんどないと聞いている」(同)

 休耕地に立つ鉄骨ビニールハウスをそのまま借りた。500平方メートルほどの広さで、ビニールを張り替え、50センチほどの穴を掘って防水シートを敷いた。海水は近くの保田漁港からトラックで九十数往復し、200トンほどの養殖池ができあがった。

 昼間の太陽だけでビニールハウスを暖め、夜は熱を逃がさず、保温コストをかけていない。2カ所のポンプで水をくみ上げ、ろ過して戻し、蒸発分は井戸水を足す。

「かけ流し」と呼ばれる海面養殖は、エサや排泄物などが海水を汚す。平野さんの養殖は「閉鎖循環式」で海洋汚染がなく、病原菌も入りにくい。

 平野さんによると、エビは過密養殖しないと採算が合わない。その技術を確立した。成育の速いバナメイエビは年3回の出荷が可能で、東京方面に生きたまま出荷できる。「薬剤をいっさい使っていない」という平野さんは、生の食感を味わってほしいと願っている。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2022年2月11日号