そういう視線で内閣の布陣を見ると、官房長官の松野博一氏は福田系。一方、萩生田光一経産相は安倍氏側近。そして外相だった茂木氏が幹事長となると、後任に据えたのが林芳正氏。宏池会に属し、ポスト岸田の有力候補だが、地元が山口県で、安倍家と林家は先代から緊張関係にあるとはよく指摘される。都市伝説の類いだが、安倍氏は「地元ではハヤシライスは決して食べない」との噂も。このように岸田氏が一見安倍氏に気を使っているように見えて、独自色を出そうとしているのがわかる。
そうはいっても、佐渡金山の問題では岸田氏も安倍氏に電話するなど配慮を欠かさない。1月11日には、2時間あまりにわたって夕食を共にした。猛烈に忙しい首相が2人だけで2時間以上というのは相当気をつかっているといえよう。2月9日にも首相は官邸に安倍氏を招いたが、わざわざ執務室のある5階から、官邸正面玄関の3階エレベーター前まで降りて出迎えた。
この官邸訪問前には安倍政権がコロナ対策で配布した「アベノマスク」をめぐりこんなことも。マスクの在庫を処分するため、岸田政権は希望者に送付したうえの廃棄を決めた。すると安倍氏は「(送付を)もっと早くやってもらっていたら」と清和会の会合で発言し、希望者が殺到していると明かした。岸田氏と安倍氏のアベノマスクをめぐる「綱引き」にも見えた。
今年は参院選だが、野党は日本維新の会を除き元気がなく、国会も波乱なく進む。首相にとって、いま一番気になる相手は党内かもしれない。
(朝日新聞編集委員・秋山訓子)
※AERA 2022年2月21日号