オミクロン株が広がる日本。人びとはさまざまな思いを抱えてコロナ禍を生きている
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■近未来の韓国描くYA

ブレイディ:日本の文化はずっと変わっていないということですね。次に私がお薦めしたいのは韓国のYA(ヤングアダルト)小説『ペイント』です。親ガチャって言葉、はやってるじゃないですか。これは近未来の韓国を描いていて、少子化が進み、親が育てたくない子どもを国が育てています。国の子どもとして育つと社会に出たときに差別されるから、子どもたちは親になりたい人を自分たちでインタビューして選ぶ。だからタイトルの『ペイント』は、ペアレンツインタビューの略語です。

高橋:おもしろい話ですね。

ブレイディ:でも親として読むと身につまされます。子どもが親を選べないって人類の永遠の課題だし、社会的で政治的。韓国では30万部以上売れていて読者は10代です。これが売れる韓国ってすごいですね。

高橋:子どもを産む権利やその選択を女性がすることをテーマにした小説が増えてきました。「女性の側の権利」がやっと認められてきたんですね。でも、これは、ある意味逆ですよね。

ブレイディ:ネットフリックスの「イカゲーム」なんかも息子の学校で大はやりだし、韓国のものはクールっていうのがもはや常識になっていますね。韓国の映画と音楽はすごいっていうのはずっとありましたが、本もそうなんですよね。

高橋:韓国の作品の方が人間と現実の間の距離が近い感じがしますね。日本の方が、高度資本主義が進んでいるから現実感が薄くなるというのは読んでいても、書いていても、感じます。韓国の作品の生々しさって、日本の昭和の小説に近いですね。

ブレイディ 国が文化的に急にカッコよくなるときの勢いってすごいですよね。

高橋:日本の経済成長は80年代で終わり、90年代初頭でバブルがはじけて収縮していった。それに比べて韓国はまだ上昇している感じがありますね。

ブレイディ:だから元気なんですよ、小説も。

■アナーキズムの原理

高橋:ところで、別の意味で衝撃だったのが、谷川俊太郎さんの絵本『ぼく』です。子どもの自殺の話なんですが、「ぼくはしんだ」で始まる、その死んだ子どものモノローグなんですね。

ブレイディ:前代未聞ですよ。

高橋:確かにこうやって、人は絶望して死ぬんだなって納得してしまう。フィクションを読んだときの感じじゃないんですね。死んでしまった子が目の前に来て、自分の死について話しているようにしか読めない。谷川さんが完全にその子になりきっている。それは90歳になった谷川さんだから可能なのかなと思いました。絵本を読み終わって絶句したのは初めてです。

(構成/編集部・三島恵美子)

*この対談は、朝日カルチャーセンター横浜教室で行われた講座を採録したものです。

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