身内ならではの思いも絡む相続のトラブル。そこで、とりわけワケありの人の相続事例を取り上げ、専門家からアドバイスをもらった。“争族”から学ぶ防御法とは──。
今回は「全額寄付したいおひとりさま女性」の場合。
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関東在住のシングル女性Bさん(70代)は、10年前から自立型の老人ホームに入居し、友人との旅行を楽しんだりして気ままなセカンドライフを送ってきた。しかし、3年前に年子の姉が亡くなり、自身の終活を意識するようになったと話す。
Bさんは不惑を過ぎたころから一生結婚しないだろうと思うようになり、死ぬまで誰にも迷惑はかけたくないと、60歳までは公務員として働きながら相応のお金をためてきた。両親はとうの昔に亡くなり、身内といえば姉の子どもである姪の2人だけ。ただ、姪たちとは交流がなく、姉の葬儀で顔を合わせたのは、実に20年ぶりだった。
にもかかわらず、「叔母さんの着物、高そう。要らなくなったら頂戴」といった姪の不躾な物言いには戸惑った。しかも、上の姪からはその後、マルチ商法の化粧品を買ってほしいという電話が何度もかかってきて閉口している。
Bさんの年金は月額20万円、銀行口座には6千万円を超える預金がある。しかし、身勝手で物欲しげな姪たちに財産を残す気には到底なれない。公務員時代から途上国の子どもを支援する特定非営利活動(NPO)法人に寄付を続けており、自分の死後にお金が残ったら、姪たちではなくそのNPO法人に渡したいと考えている。
遺産を寄付するには大きく二つの方法がある。一つは遺言を使った寄付、もう一つが遺言によらず、相続人が故人の遺志に基づいて寄付をする方法だ。二つ目の方法は、このケースだと相続人である姪たちに約束を反故にされかねず、リスクが高い。Bさんのケースなら「NPOに全財産を寄付する」という遺言書を書き、その中で弁護士など信頼できる遺言執行者を指定しておくのが望ましい。
ただし、遺言書があっても、相続人がNPOに対して遺留分を請求したり、「遺言は故人の遺志と異なる」として遺言書の無効の申し立てをしたりする可能性もある。
Bさんの場合は相続人が姪なので、遺留分の請求権はない。無効の申し立てをされないためには、遺言書は確実性が高い公正証書遺言(公証人が作成し、公証役場で保存される遺言)にし、さらに認知機能に問題がないという医師の診断書を取っておくといい。(ライター・森田聡子)
※週刊朝日 2022年3月4日号より抜粋