リンディ・ウェスト著の『わたしの体に呪いをかけるな』(金井真弓訳、双葉社 2530円・税込み)を東北芸術工科大学講師でライターのトミヤマユキコさんが評する。
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共感せずにはいられないタイトルである。ルッキズム(外見に基づく差別、外見至上主義)がいたるところで待ち構えているこの世界で、呪いをかけられることなく生きられる体などない。美しければ美しいなりに、そうでなければそうでないなりに、己の体にかけられる呪いと付き合っていかねばならないのが人生。著者のリンディは女性だが、これは性別にかかわりなく、誰しもが一度は考えてみたくなるテーマであろう。
リンディは太っていて、自分のことを「デブ」と呼ぶ。でも、だからって、他人から侮辱されることをよしとしているわけじゃない。実際、彼女は自分をブタ呼ばわりするタチの悪いインターネットトロール(日本で言うところの「荒らし」)を放置せず、ラジオ番組に呼んで語り合ったことさえあるのだ。嫌なやつと出くわしたら敵認定して遠ざけてしまいたくなる人が大半だと思うが、彼女は違う。近づいて、声を聞き、分析する。そうすると、憎むべきトロールが実は気の毒な人だとわかったりする。無知がもたらす闇に、知という光を招き入れる。それが彼女のスタイルである。
自伝的エッセイとして書かれた本書には、太っている自分にまつわる話や、女性蔑視的なネタをかけ続けるコメディアンの話、あるいはまた、彼女自身の恋愛話も出てくる。つまりそれは、彼女の人生そのものを(大まかにではあるが)描き出していると言っていい。読めば彼女の人となりがわかるし、きっと読者の多くが彼女を好きになるだろう。しかし、本書は決してそれだけで終わるものではない。生きづらさを抱えた者たちがこの世界をサバイブしていくのに必要な言葉=武器が、テクストのあちこちに転がっている。要するにパンチラインだらけなのだ。