AERA 2022年3月14日号より

「自由」と生じた「誤算」

 兄と弟、成年式を前にした記者会見での質問の違いなどを示し、皇族としての明確な目標のない次男だから好きな研究の道を歩む、早く結婚し、両親らと別な生計を立て、より自由な道を得る。江森さんは、若き秋篠宮さまの思いをそう解説した。

 が、そこに「大きな『誤算』が生じた」と江森さん。それは、兄夫妻に男子が生まれなかったことだ、と。そして06年の悠仁さまの誕生に筆を進め、「ここに、今に続く、彼の大きな苦悩があるのではないだろうか」と書いた。

 次男であり、将来の天皇の父。秋篠宮さまは、叔父も大叔父も経験していない立場にいる。その複雑さゆえの「誤算」と「苦悩」。端的すぎる表現だ。

 江森さんは「仮にだが」として「皇太子夫妻に男の子が誕生していたら」と論を進めている。マスコミの目も国民の関心もそちらに集中、悠仁さまの誕生も「秋篠宮家の後継ぎ」として喜ばれるだけで、特別な視線が送られることもなかったろう、と。

 この本が出版されたのは平成が終わる前年の18年だった。それから4年。仮のこの論を現在に当てはめるなら、眞子さんの結婚も悠仁さまの筑波大学付属高校進学も、これほど批判を招くことはなかっただろうと思う。そしてもう一つ、仮の論として、秋篠宮さまが長男だったら、と置いてみる。

男系男子に限る継承

 女子2人と男子が生まれる。女子は大学から、男子は幼稚園から非・学習院を選択する。自由がキーワードの家庭ということで、あまり波風は立たなかったはずだ。大学で出会った男性と長女が婚約、その男性の関係者が「金銭トラブル」を訴えたとしても、嵐のような非難は起きなかったに違いない。

 そう書きながら胸が痛む。「男系男子」に皇位継承を限っていることに行き着いてしまうからだ。それがなければ、誤算も苦悩もなかった。それは兄弟どちらの家庭にも、と思う。

「民法に家の観念も長子相続もなくなつたに係らず、皇室だけは長子相続で家のある様な建前で」と田島氏が語ってから、72年が経とうとしている。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2022年3月14日号

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