■EBMを正しく理解し、患者に合った治療を選択

 治療の安全性や効果については、「エビデンス(科学的根拠)」という言葉が、一般の人の間でも当たり前に使われるようになった。「EBM(Evidence-Based Medicine=科学的根拠に基づく医療)」は1991年に発表された考え方だが、しばしば誤解されていると中山医師は言う。

「医師の勘や経験ではなく、『エビデンス』を重視しておこなう医療のことを、『エビデンスに基づく医療』だと理解されがちですが、異なります」

 EBMは次の四つの要素が統合された概念であり、治療法を検討する際には、この四つを考慮して意思決定をするべきだとされている。

1.最良の研究によるエビデンス(十分な数の人間で疫学的手法によって得られた一般論)
2.臨床的熟練(個々の医師の経験の積み重ねに基づく熟練・技能・直感的判断力)
3.患者それぞれの価値観(患者の希望、意向、価値観)
4.状況(患者の個別性・多様性と、医療をおこなう場)

 つまり、科学的に証明された医療を、医師の経験に基づいておこなうことは大前提だが、患者の価値観や一人ひとりの違いにも留意することが必須ということだ。中山医師はこう話す。

「患者さんは病気を治したいのはもちろんですが、治療後のQOL(生活の質)を保ちながら、長生きするというのが真のゴールです。しかし医師は目の前の病気を治すことをゴールに置きがち。ガイドラインにのっとった治療であっても、患者さんによっては、QOLが低下したり、益より害が大きくなったりする可能性もあるのです」

■医師と患者の新たなコミュニケーションのありかた

 臨床試験に当てはまらない緩和医療や希少疾患もある。患者の特性、年齢、生活環境、経済状況などはさまざま。薬や治療は多様化し、低侵襲治療や延命治療、東洋医学などを例にとっても、価値観は実に多様だ。

 そのため、確実性の高い治療の選択肢が二つ以上ある場合、どれが患者にとってベストなのか、医療の専門家であっても判断できないことがある。こうした事例に対応した、医師と患者の新たなコミュニケーションのありかたを「SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング/医師と患者の情報共有による意思決定)」といい、認知が広がりつつある。

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