今を時めくお笑いコンビ「EXIT」の兼近大樹さん。昨年10月、初の小説『むき出し』を出版しました。芸風は「チャラい」ことで有名ですが、「小説を書くために芸人になった」という意外なエピソードも。作家・林真理子さんとの対談で語ってくださいました。
【EXIT兼近大樹、小説執筆は「ケータイで全部ひらがな」 又吉直樹からの助言も】より続く
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林:主人公の「石山」って、女の先生をいじめて追い出しちゃうとか、すごく悪い少年だけど、そういうことをする理由は、すべて彼の中にあるんですよね。読むうちに、彼の内面がわかってくると、読者も「こんな理由があるのに、なんで大人はもっとわかってあげないの」って思いに変わる。それもこの小説の手柄だと思いますよ。
兼近:ああ、うれしいです。この主人公は、嫌われるようなことをしているけど擁護したくなるというか、ズルさと純粋さをあわせもっている。そんな側面があるのかな、と思っていますね。
林:「石山」は家が貧乏だし、親も仲が悪いんだけど、家族思いだし、「世の中バカヤロー」とは思わないんですよね。友達に対してもやさしいし、決して孤独じゃないところに救いがあって、いい読後感を生んでますよ。すごくやさしい子だと思います。
兼近:うれしいですね。「石山」は自分を正当化しようとするし、被害者意識も強くて、イヤな部分もあるんですが、そこも含めて「やさしい」って読んでくださる方がいるなんて、この世の中、やさしいなって僕は思います。
林:お仕事すごく忙しいのに、書く時間、じゃなくて、打つ時間はあったんですか。
兼近:日々のテレビなどの仕事が終わったあと、家に帰って打つんですけど、「あれを書きたい」と思ったことがあっても、夜になると何書きたいか忘れちゃったりしてて。それで、なんとか思い出して打つんですけど、読み返したりしたらもう朝になってて、そのまま仕事に行くこともありましたね。
林:兼近さんは知らないだろうけど、昔は私もテレビにすごく出てたときがあって。テレビって外に向かって自分をワーッと広げていくんだけど、書くって内に集中させるから、うちに帰ってクールダウンして、精神的に全く正反対なことをしなくちゃいけない。当時はそれってけっこう難しいな、と思ってましたよ。