※写真はイメージです (GettyImages)
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 一九七〇年、忘れられない映画が公開された。ヴィットリオ・デ・シーカ監督、マルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレン主演の「ひまわり」。撮影地はウクライナだと聞いた。北の大地を一面に覆うひまわりをバックに、戦争で引き裂かれた夫婦の愛を描く物語である。

 幸せな日々は第二次大戦で、夫が最前線に送られたことで終わりを告げる。終戦後「あなたの夫の死亡情報はない」という言葉を頼りに、帰らぬ夫を探しに妻はソ連を訪れる。広大な地を埋めつくすひまわり。ひまわりはウクライナの花だ。

 やっと見つけた夫は、命を助けられたロシア人女性と家庭を持っていた。泣き崩れてイタリアに帰った妻のもとに数年後、もう一度やり直したいと夫がもどってくるが……。

 なんとも哀しい物語である。今度のウクライナ侵攻で真っ先にこの映画を想い出した人は多いだろう。

 マストロヤンニのファンである私は三度は見た気がする。戦争はすべてを引き裂く。戦時中も、いや戦争が終わった後までも。公開から五〇年余、ヘンリー・マンシーニの曲が耳に響く。

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

週刊朝日  2022年3月25日号

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下重暁子

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下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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