戯曲を読んでまず驚かされるのが、膨大なセリフの量。井之脇さんも、「今までやってきたどの役よりも多いんです」と苦笑いする。
「しかも、観客からすると一見会話が成立していないように感じられる内容だったりする。カナダで生まれた戯曲なので、独特の言い回しや、英語だからこそのリズムもあるはずで。その流れみたいなのを捉えてセリフを言えるようになりたいです。セリフが身体に入っても、機械的にスラスラ言ってしまったらつまらない。セリフって、相手に思いを伝えたいから、その時々でリズムやテンポ、スピードなんかを選んでいると思う。頭で考えるんじゃなくて、身体全体で感じないといけないので、それをこれから作っていきます」
これまで、舞台出演はさほど多くはない。今回の舞台は、まさに挑戦の場だ。わざわざ大変なところに飛び込んでいくのは、どこかにいわゆる“マゾっ気”があるのだろうか。
「そうですね、僕の知っている役者はみんなドMだと思います(笑)。だって、役者って、人前で恥ずかしいことをしたりするわけで、それを『恥ずかしい』と思っていたら、芝居なんてできない。自分だったら恥ずかしいけど、役でいるときはその自我が外れていくことも、演じることの面白さの一つかなと思います」
現時点での自分の強みについて聞くと、「何なんですかね?」と言って少し黙ってから、遠慮がちに話し始めた。
「自分で武器かもしれないと思うのは、『役の人生をちゃんと背負いますよ』ということです。とにかく、自分にできる準備はしっかりやるように、誰よりも役のことを考える意気込みではいます。正直、僕は普段から感情が外に出にくいので、『お芝居がうまい』とかそう言ってもらえるタイプではない気がしていて……。よく人からは、『役の生活感が滲み出るタイプだよね』みたいなことを言っていただけるんですが、ふとした瞬間に出てしまう“僕”の本質みたいなものが、同じパターンになってしまうのは避けたい。そのために今は、とにかくいろんなことを吸収する時期かなと。演じるときは、役のバックボーンと、役が今何をしたいかという目的、それに伴う障害をちゃんと構築しておく。そこまでやると、演じながら出てくる人間臭さが、僕だけど僕じゃない感じがするときがあって。それも楽しいです」