週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より
週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より

■リスクを多角的に見て、内視鏡か手術か検討を

 がんが粘膜内にとどまっていて、周囲のリンパ節へ転移していない上図のチャートの事例は、内視鏡治療が可能だ。がんが粘膜下層より深くにあり、リンパ節転移のリスクが1%以上あると、リンパ節郭清(かくせい)が必要なため、手術がすすめられる。

 だが、これはあくまで基準に過ぎない。超高齢者では、手術の負担にからだが耐えられないことがある。ステージIで手術を受けた90歳以上の男性のうち、5%が3カ月以内に死亡したというデータもある。県立静岡がんセンターの小野裕之医師はこう話す。

「転移リスクの1%を回避するための手術で、5%が亡くなるのは問題です。高齢者は胃の切除に伴う体重減少など、手術の影響が強く出やすい。術後に想定される状態も含めて、手術と内視鏡治療、どちらのリスクが高いかを検討してほしい」

 都立多摩総合医療センターの並木伸医師の見解も同様で、さらに、がんができた部位にも着目すべきだと指摘する。

「胃の入り口(噴門)近くにできたがんは、手術だと全摘になることが多いのですが、術後のQOL(生活の質)が低下してしまいます。内視鏡で切除できそうな病変なら、内視鏡治療で胃を温存することを勧めます」

■適応がさらに拡大ESDが治療の主流に

 現在の胃がん内視鏡治療の主流である「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」は、適応となるがんの大きさの制限が撤廃・緩和され、3センチを超える病変にも広くおこなわれるようになっている。分化型のがんでは、2018年に大きさの制限がなくなり、21年2月には未分化型のがんでも、2センチ以下ならおこなえるようになった。

「ESDの適応がどんどん広がっているぶん、治療の水準は医師の経験によるところが大きい。治療数は、病院選びのひとつのポイントになるでしょう」

 と、小野医師。並木医師も同意見だ。

「切除ラインを決めづらい、粘膜をはがしづらいといった難しい場面をいかに切り抜けるかがカギ。治療数が多ければこうした場面の経験も多いと考えられ、質の高い治療が期待できます」

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転移リスクも鑑み、手術を受けるなら早めに