投稿された「コスプレ」で検査を受ける写真(下川さん提供)
投稿された「コスプレ」で検査を受ける写真(下川さん提供)

「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。今回は、番外編。コロナ禍でロックダウンの上海で話題となった出来事について。

花嫁姿でPCR検査を受ける市民の様子(下川さん提供)

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 上海のロックダウンが続いている。中心部を流れる黄浦江を境に、東部は3月28日から4月1日まで、西部は4月1日から4月5日までの予定だった。しかし感染拡大が止まらない。4月5日には1万3千人を超える陽性者数で、ともに延長。期限は示されていない。
 
 ゼロコロナをめざす中国のロックダウンは厳格だ。2400万人超が家から出られない。商店はすべて閉まり、デリバリーも不可。行政から無料で届く食料に頼ることになる。バスやタクシーも運行できない。
 
 しかし東部と西部では街の構造が違う。そこには温度差もあるようだ。
 
 東部は摩天楼とも呼ばれる上海の新興エリア。高層ビルや団地が広がる。上海港や浦東空港もここにあり、ロックダウンの影響がでてきているという。感染者も東部が多い。上海では3月初旬から、陽性者が出たエリアでの封鎖がはじまっていた。東部にはすでに1カ月近く、部屋から出ることができない人もいるという。スーパーで食料を巡ってトラブルが多かったのも東部だ。
 
 西部は下町。旧租界エリアもここ。昔からの商店も多く、ロックダウン前でも並ぶ食料は豊富で、住民に動揺は少なかった。この一帯には、塀で囲まれた小区というエリアに20~30世帯が暮らす構造が多い。通りからの入り口には門がある。そのなかなら歩いてもいいという小区もある。それだけでもストレスが軽減されるという。
 
 日本人のAさん(40)が暮らすのもそんな小区のなか。4月1日からロックダウンは始まったが、状況は落ち着いている。しかし食料の配給などの情報はまったくない。これだけの規模のロックダウンは中国も未経験で、混乱がつづいている。住民が小区の責任者に聞いても、「上からの連絡を待つしかない」という返事。
 
 ところが4月2日、唐突にボランティアの人たちの手で食料が届いた。前触れもなかった。タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、ニガウリ、ダイコン、牛肉……。野菜は思った以上に新鮮だったという。4月5日には豚肉となぜか風邪薬が配給された。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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