北朝鮮外務省は3日付で、国連人権理事会が1日に採択した、北朝鮮による市民への人権侵害や日本人拉致などの人権犯罪を糾弾(きゅうだん)し、改善を促す決議を「徹底的に反対排撃する」などとした報道官談話を発表した。北朝鮮が国際社会の一員になれば、正恩氏や与正氏ら赤い貴族は人権侵害の責任を追及される。正恩氏らは国際社会に核保有を認めさせたうえで、適度に閉じた世界で自分たちの享楽的な生活を維持しようとするだろう。

 一方、日本政府は北朝鮮に対し、核・ミサイルや拉致などの問題を一括して解決するよう求め、無条件での首脳会談の開催を呼びかけている。岸田文雄首相は、安倍、菅両政権を踏襲し、拉致問題を内閣の最重要課題に据えている。金正日総書記は02年9月の日朝首脳会談で拉致の事実を認め、日本人5人が帰国した。政府は帰国した5人を含む17人を拉致被害者と認定しているが、残る12人や、警察当局が拉致の可能性を排除できないとした人々の帰国は一人も実現できていない。

 正恩氏が日朝協議に関心を示した時期もあった。日朝の秘密協議が12年、第三国で数回にわたって行われた。当時、日本側が、韓国との国交正常化の際に行った経済支援などを紹介すると、北朝鮮側の姿勢は前向きになり、14年5月、拉致被害者らの再調査を北朝鮮が約束した日朝ストックホルム合意が実現した。北朝鮮の狙いが、日本の経済支援にあることは明らかだった。

 ただ、北朝鮮は水面下で、日本が05年4月に被害者に認定した田中実さん(失踪当時28)と「拉致の可能性を排除できない」とされている金田龍光さん(同26)が生存しているとの情報を伝えてきた。北朝鮮は2人の生存情報を最後に拉致問題の完全解決を求めていた。日本側は、2人の生存情報だけで再調査を終了させず、引き続き調査を行う余地を残すよう交渉したが、北朝鮮はストックホルム合意の翌々年、再調査中止を宣言し、最終的に決裂した。日朝両政府とも、2人の生存情報について公表していない。

 北朝鮮も、核ミサイル問題が解決しない限り、日本が経済支援に踏み込めないと判断している。18年6月の中朝首脳会談で、中国の習近平国家主席が「これから日本人拉致問題が、必ず解決しなければならない問題として浮上する。日本との関係も避けて通れないだろう」と述べたのに対し、金正恩氏は「ご指摘の問題は理解している。ただ、今はまだその時期ではない」と答えたという。

 北朝鮮が核実験に踏み切った場合、米国はロシアや中国との対決に集中するため、一時的な対話に応じるかもしれないが、制裁の緩和には踏み込まないだろう。複数の日本政府関係者は「日本は対話に反対し、北朝鮮にさらに強い圧力をかけるよう求めることになる」と語る。北朝鮮の未来も日朝関係の展望も決して明るいものではない。(朝日新聞記者・牧野愛博)

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AERA 2022年4月18日号

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