3月24日、北朝鮮は弾道ミサイルを発射した。核実験の準備も進み、年内にも7度目の実験に踏み切る可能性が高いという。繰り返されるミサイル発射と核実験は、金正恩氏と高級幹部「赤い貴族」の生活を守る術でもあるようだ。AERA 2022年4月18日号の記事から。(全2回の2回目)
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富が集められた平壌でも、中心部の中区域などに住む「赤い貴族」と呼ばれる高級幹部たちにさらに富を集中させる。朝鮮中央通信は4月3日、金正恩氏が中区域で完工した高級住宅群を視察したと伝えた。高級ホテルのような内装や家具を備えた住宅内部の写真も紹介された。平壌市に住んでいた脱北者によれば、こうした住宅に住めるのは、高級幹部に限られる。一般市民らは住宅不足に苦しめられ、3DKに3世帯が暮らすことも珍しくない。
また、昨年12月に行われた金正日総書記死去10周年の追悼式など、節目の式典に出席する幹部は同じスタイルのコートを着用している。最高指導者からの贈り物だ。
その代わり、高級幹部たちは常に監視される。脱北した元党幹部によれば、中区域で高級幹部たちが住む地区の電話は常に盗聴されている。韓国に亡命して10年に亡くなった黄長ヨプ元党書記は「冬でもパイナップルを食べられる」豪華な生活を送っていた。同時に黄氏は米国の専門家のインタビューで「いつどこで、誰が見ているかわからない。北朝鮮では地位が上がるほど監視される。自分も24時間、監視されていた」と証言した。
金正恩氏にとっての北朝鮮は、自分と赤い貴族のために存在する。正恩氏は11年末の権力継承後、平壌の高層アパート群、日本海側の大規模観光ホテル群、平壌総合病院などの整備を進めてきた。これらは、正恩氏と赤い貴族たちの生活や、豪華な暮らしをするための外貨を得る事業だったと言い換えることができる。
国際社会の一員になれば、責任を追及される
核とミサイルは、通常兵器で劣る彼らの生存を保障する手段だ。金与正氏は4月2日付の談話で、「北朝鮮のいかなる標的も正確、迅速に攻撃できる能力を備えている」などと語った徐旭(ソウク)韓国国防相を「狂人であり、くずである」とののしった。与正氏は4日付の談話では、韓国が軍事行動に踏み切る場合は、「核戦闘武力が動員されることになる」と恫喝した。猛烈な反発は、赤い貴族たちが自分たちの生存に極度に敏感になっている証拠でもある。
北朝鮮は核保有国としての地位を認めさせ、制裁の緩和を勝ち取るため、米国との交渉を望んでいるが、国交正常化や国際社会の一員としてデビューすることを望んでいるわけではない。