中学・高校は大阪の学校に通ったが大阪は東京に比べ緑が少ない。皇居、新宿御苑、神宮の森と外苑、この緑の多さが自慢だった。それが年々と失われていく。
それも知らぬ間に無機質な高層ビル群と化す。
日本人は緑を大切にしない。なぜなら雨が多いためだ。すぐ草が萌え、あっという間に樹が育つ。そのために鈍感になっているのだ。緑は勝手に出てくるものという感覚だ。
私は、かつて半年エジプトのカイロに暮らしたことがある。一応ゴルフ場があるが、ぺんぺん草のような申し訳程度の緑がある所がグリーンだった。
欧米の公園や街並みの緑はほとんど人工的に植えられたものだ。度重なる戦争で焼けた都市に緑を植え、街を整えた。第一次、第二次世界大戦後に造られた庭園も数多い。
欧米の人々は公園の緑を大切にする。それは戦のあと人工的に造られたものだからだ。費用もかかっている。日本人は緑と水はタダという意識がどこかにあるのではないか。
ウクライナの惨状を見るにつけ、人々が憩う公園が復活するのはいつの日かと考える。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年4月22日号